高校で複素数平面を習ったとき、複素数 z=x+iy は平面上の点 (x,y) でした。
この章ではもう一歩進めて、複素数関数 w=f(z) を「入力平面から出力平面への写像」として見ます。
2つの数の組を足し引きするだけでなく、平面そのものを変形させる操作として複素関数を動かしてみましょう。
極形式 — 絶対値と偏角
複素数は直交座標 (x,y) のほかに、極形式でも書けます。
z=x+iy=r(cosθ+isinθ)=reiθ
ここで r=∣z∣=x2+y2(絶対値・原点からの距離)、θ=argz(偏角・実軸からの角度)です。
zは(3.00, 4.00)。r=5.00、偏角シータ=53.1度。
青x=3.00・緑y=4.00を2辺、赤r=5.00を斜辺とする直角三角形。三平方の定理から r=x2+y2=5.00、偏角 θ=53.1∘。
図のように、点 z は原点・(x,0)・(x,y) を頂点とする直角三角形の頂点になっており、斜辺 r と2辺 x,y の関係は三平方の定理そのものです。ただし θ=argz は z=0 のときにのみ定義され、2π の整数倍だけ不定です(θ と θ+2π は同じ点を表します)。本コースで偏角を単一の値として扱うときは、主値 Argz(−π<Argz≤π の範囲に取った値)を用います。z=0 では偏角そのものが定義されません(図で z を原点に近づけると θ の表示が消えるのはこのためです)。
最後の等号 cosθ+isinθ=eiθ はオイラーの公式で、複素関数を考えるときの基本道具になります。
積は「絶対値の積・偏角の和」
極形式で書くと、複素数の掛け算の意味がはっきりします。z1=r1eiθ1、z2=r2eiθ2 のとき、
z1z2=r1r2ei(θ1+θ2)
つまり 絶対値どうしを掛け、偏角どうしを足すだけです。「i を掛けると90°回転する」というよく知られた事実も、i=eiπ/2 なので偏角に π/2 を足すことで説明できます。
複素関数を「色」で見る — ドメインカラーリング
複素関数 w=f(z) は「平面→平面」の写像なので、グラフ(高さ)では表せません。そこで
出力 w の偏角を色相、絶対値を明るさに変換して、入力平面をそのまま塗り分けます。
z2 0π/2π3π/2
色相 = 偏角(上の帯が凡例)・明るい = |f(z)| が大きい
色相 = argf(z)、明るさ = ∣f(z)∣ の単調な関数(零点で暗く、極で明るく)。暗い筋は偏角 0,π/2,π,3π/2 の等値線(巻き数を色に頼らず数えられます)。原点は2位の零点 — 原点の周りで色相が2周する
関数を切り替えて、次を確認してください。
- z2: 原点のまわりを1周すると、色相は2周する(原点は2位の零点。零点とは関数の値がちょうど 0 になる点を指します)
- 1/z: 原点のまわりを1周すると、色相は1周し、原点に近づくほど明るい(原点は極。極とは関数の値が限りなく大きくなる点を指します)
- ez: 零点も極も持たないので、色相は虚部(縦方向の位置)だけで決まり横縞になる。ただし明るさは実部に沿って変わる(∣ez∣=ex)
零点・極のまわりで色相が何周するかを「偏角の巻き数」と呼びます。これは零点・極の位数(z2 の「2位」のような、零点・極の重なりの度合いを表す整数。次レッスンで正式に定義します)を目で数える方法です。
理解チェック
z=3+4i の絶対値 ∣z∣ はいくつでしょうか?また z=2i の偏角(度)はいくつでしょうか?
答えを見る
絶対値は ∣z∣=32+42=5。z=2i は実軸上に成分を持たず虚軸の正方向を向くので、偏角は 90°(π/2 ラジアン)です。
式で確かめる
動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。
確認 1 / 3
z=−3+4i の絶対値 ∣z∣ はいくつですか?
確認 2 / 3
z1=2eiπ/3、z2=3eiπ/6 のとき、z1z2 の絶対値と偏角の組はどれですか?
確認 3 / 3
ドメインカラーリングで、ある点の周りを1周すると色相がちょうど3周していました。この点は何を表していますか?
執筆: 中野竜之介 / 監修: 古郷優平
中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり
最終更新: 2026-07-05
主な参考文献: Needham『Visual Complex Analysis』(Oxford) / Ahlfors『Complex Analysis』(McGraw-Hill) / 神保道夫『複素関数入門』(岩波)
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