前回、複素微分可能であるためのヤコビ行列の条件から、次のコーシー・リーマン方程式(CR方程式)が出てきました。f=u+iv として、
ux=vy,uy=−vx
CR方程式の十分条件
CR方程式は複素微分可能性の必要条件です。偏導関数 ux,uy,vx,vy が近傍で連続なら、CR方程式から複素微分可能性が従います(これは十分条件であり、連続性は必要条件ではありません。通常の教科書の例ではほぼ自動的に満たされます)。
CR方程式が不成立なら複素微分不可能、という反例を見ておきましょう。f(z)=zˉ=x−iy とすると u=x, v=−y。
ux=1,vy=−1
ux=vy なので CR方程式は成り立ちません。u,v はどちらも(実関数として)なめらかなのに、f(z)=zˉ はどの点でも複素微分不可能です。「実部・虚部がなめらか」というだけでは、複素微分可能性には足りないのです。
具体例で検算する — f(z)=z2
f(z)=z2=(x+iy)2=(x2−y2)+i(2xy) なので u=x2−y2、v=2xy。
ux=2x=vy,uy=−2y=−vx
CR方程式がすべての点で成立するので、f(z)=z2 は複素平面全体で正則です。
臨界点で等角性が壊れる
像(青=実際の f による像、橙の破線円=線形近似)
z0は(1.00, 0.60)。この点での回転角は31.0度、拡大率は2.33倍です。
赤=東方向・緑=北方向へ動かした像(どちらの方向でも回転角は同じ=等角性)。f(z)=z2、f′(z0)=2z0=(2.00, 1.20)、∣f′(z0)∣=2.33。実線(実際)と破線(近似)がほぼ重なる=局所的には回転+拡大そのもの。
z0 を原点にドラッグしてみてください。f′(0)=2⋅0=0 となり、線形近似(回転+拡大)が意味をなさなくなります。実際、原点付近では f(z)=z2 は角度を2倍にしてしまい(1章のドメインカラーリングで見た「色相が2周する」現象と同じ理由です)、角度を保つ「等角写像」ではなくなります。この f′(z0)=0 となる点を臨界点と呼びます。次の章「等角写像」では、この臨界点で等角性が破れることを扱います。
理解チェック
f(z)=z2、点 (x,y)=(3,−1) での ux と vy をそれぞれ計算し、CR方程式が成り立つか確認してください。
答えを見る
ux=2x=6、vy=2x=6 で一致します(どちらも 2x になるのは u=x2−y2,v=2xy の形から)。CR方程式は成立しています。
式で確かめる
動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。
確認 1 / 3
f(z)=zˉ について正しい記述はどれですか?
確認 2 / 3
f(z)=z2 について、点 (x,y)=(2,5) での uy の値はいくつですか?(u=x2−y2)
確認 3 / 3
臨界点(f′(z0)=0)で何が起きますか?
執筆: 中野竜之介 / 監修: 古郷優平
中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり
最終更新: 2026-07-05
主な参考文献: Needham『Visual Complex Analysis』(Oxford) / Ahlfors『Complex Analysis』(McGraw-Hill) / 神保道夫『複素関数入門』(岩波)
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