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複素微分と正則関数

実数関数の微分は「その点での接線の傾き」でした。複素関数でも同じ形の極限を考えます。

f(z0)=limΔz0f(z0+Δz)f(z0)Δzf'(z_0) = \lim_{\Delta z \to 0} \frac{f(z_0+\Delta z)-f(z_0)}{\Delta z}

ただし、これは実数のときよりずっと強い条件です。実数の極限は左右2方向からの近づき方だけを考えればよいのに対し、複素数の Δz0\Delta z \to 0平面上のあらゆる方向からの近づき方を含みます。どの方向から近づいても同じ極限値になるとき、その点で複素微分可能といいます。さらに、ある点の近傍のすべての点で複素微分可能なとき、その点で正則(holomorphic)といいます(1点だけで複素微分可能でも正則とは限りません。例: f(z)=z2f(z)=|z|^2z=0z=0 でのみ複素微分可能で、どこでも正則ではありません)。

局所線形近似 — f' は「回転+拡大」

ffz0z_0 で複素微分可能なら、z0z_0 の近くで

f(z)f(z0)+f(z0)(zz0)f(z) \approx f(z_0) + f'(z_0)(z-z_0)

という1次近似が成り立ちます。実数の f(z0)f'(z_0) による1次近似は「傾き」ですが、複素数の f(z0)f'(z_0) を掛ける操作は、平面上では argf(z0)\arg f'(z_0) だけ回転して、f(z0)|f'(z_0)| 倍に拡大する」相似変換になります。つまり複素微分可能で f(z0)0f'(z_0)\neq0 の点では、拡大鏡でどれだけズームしても、ff は「回転+拡大」にしか見えません(f(z0)=0f'(z_0)=0 だと1次近似が潰れ、この後で見るように角度が保たれません)。正則でない例として共役 f(z)=zˉf(z)=\bar z(実軸に関する鏡映で、どこでも複素微分可能ではありません)を考えると、角度の保たれ方が変わります。

写像を選択

定義域(青=実線・橙=破線の2直線、z0をドラッグ)

像(接線方向を同じ長さで表示)

交点 z0 の座標

z2乗を選択中。z0は原点ではないのでf'(z0)は0ではありません。定義域の交角は80.0度、像の交角も80.0度で、大きさ・向きとも保たれています。

f(z)=z2f(z)=z^2f(z0)=2z00f'(z_0)=2z_0\neq0(z00z_0\neq0なので)。定義域の交角 80.080.0^\circ が像でも 80.080.0^\circ のまま保たれます(等角性)。

z2z^2(正則・f(z0)0f'(z_0)\neq0 の点)では原点でない交点 z0z_0 を通る2曲線の交角が大きさ・向きとも保たれるのに対し、zˉ\bar z(反正則)では大きさは同じでも交わる向き(反時計回りか時計回りか)が反転します。プリセットを切り替えて見比べてください。

定義域(z₀をドラッグ)

像(青=実際の ff による像、橙の破線円=線形近似)

複素点 z0 の座標

z0は(1.00, 0.60)。この点での回転角は31.0度、拡大率は2.33倍です。

赤=東方向・緑=北方向へ動かした像(どちらの方向でも回転角は同じ=等角性)。f(z)=z2f(z)=z^2f(z0)=2z0=(2.00, 1.20)f'(z_0)=2z_0=(2.00,\ 1.20)f(z0)=2.33|f'(z_0)|=2.33。実線(実際)と破線(近似)がほぼ重なる=局所的には回転+拡大そのもの。

z0z_0 をドラッグし、半径 ε\varepsilon を小さくしてみてください。半径 ε\varepsilon を小さくするほど、実線(実際の ff による像)と破線の円(線形近似)は近づきます(ε0\varepsilon\to0 で一致し、有限の ε\varepsilon では誤差 ε2e2it\varepsilon^2 e^{2it} が残ります)。ただし z0z_0 を原点に近づけると話が変わります。f(z)=z2f(z)=z^2f(z)=2zf'(z)=2zz0=0z_0=0 でちょうど 00 になり、近似円が点に潰れて実際の像(2倍の角度で回る曲線)とずれてしまいます。

なぜ「回転+拡大」になるのか(CR方程式への入口)

f=u+ivf=u+iv(実部 uu、虚部 vv)として、ff を実2変数の写像 (x,y)(u,v)(x,y)\mapsto(u,v) と見ると、そのヤコビ行列は

(uxuyvxvy)\begin{pmatrix} u_x & u_y \\ v_x & v_y \end{pmatrix}

です。これが複素数の掛け算(回転+拡大)を表す行列 (abba)\begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} の形になるためには、ux=vyu_x=v_y かつ uy=vxu_y=-v_x が必要です。これが次のレッスンで扱うコーシー・リーマン方程式で、「実部・虚部が単なる滑らかな2変数関数」であることと「複素微分可能であること」を分ける境界線になります。

理解チェック

f(z)=z2f(z)=z^2z0=1+iz_0 = 1+i のとき、f(z0)f'(z_0) はいくつでしょうか?

答えを見る

f(z)=2zf'(z)=2z なので f(1+i)=2(1+i)=2+2if'(1+i) = 2(1+i) = 2+2i。絶対値は 2+2i=22|2+2i|=2\sqrt2、偏角は 45°45° です。z0z_0 の近くでは「45°回転して 222\sqrt2 倍に拡大」する変換になっています。

式で確かめる

動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。

確認 1 / 3

複素微分可能であるための条件として正しいものはどれですか?

確認 2 / 3

f(z)=z2f(z)=z^2z0=2iz_0=2i のとき、f(z0)f'(z_0) の虚部はいくつですか?

確認 3 / 3

f(z0)0f'(z_0)\neq0 のとき、z0z_0 近くの局所線形近似が表す変換は何ですか?

この章の定義・定理・公式をまとめて確認する

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執筆: 中野竜之介 / 監修: 古郷優平

中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり

最終更新: 2026-07-05

主な参考文献: Needham『Visual Complex Analysis』(Oxford) / Ahlfors『Complex Analysis』(McGraw-Hill) / 神保道夫『複素関数入門』(岩波)

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