複素解析 / 第2章 · 1つ目のレッスン
無料レッスン複素微分と正則関数
実数関数の微分は「その点での接線の傾き」でした。複素関数でも同じ形の極限を考えます。
ただし、これは実数のときよりずっと強い条件です。実数の極限は左右2方向からの近づき方だけを考えればよいのに対し、複素数の は平面上のあらゆる方向からの近づき方を含みます。どの方向から近づいても同じ極限値になるとき、その点で複素微分可能といいます。さらに、ある点の近傍のすべての点で複素微分可能なとき、その点で正則(holomorphic)といいます(1点だけで複素微分可能でも正則とは限りません。例: は でのみ複素微分可能で、どこでも正則ではありません)。
局所線形近似 — f' は「回転+拡大」
が で複素微分可能なら、 の近くで
という1次近似が成り立ちます。実数の による1次近似は「傾き」ですが、複素数の を掛ける操作は、平面上では 「 だけ回転して、 倍に拡大する」相似変換になります。つまり複素微分可能で の点では、拡大鏡でどれだけズームしても、 は「回転+拡大」にしか見えません( だと1次近似が潰れ、この後で見るように角度が保たれません)。正則でない例として共役 (実軸に関する鏡映で、どこでも複素微分可能ではありません)を考えると、角度の保たれ方が変わります。
定義域(青=実線・橙=破線の2直線、z0をドラッグ)
像(接線方向を同じ長さで表示)
z2乗を選択中。z0は原点ではないのでf'(z0)は0ではありません。定義域の交角は80.0度、像の交角も80.0度で、大きさ・向きとも保たれています。
(正則・ の点)では原点でない交点 を通る2曲線の交角が大きさ・向きとも保たれるのに対し、(反正則)では大きさは同じでも交わる向き(反時計回りか時計回りか)が反転します。プリセットを切り替えて見比べてください。
定義域(z₀をドラッグ)
像(青=実際の による像、橙の破線円=線形近似)
z0は(1.00, 0.60)。この点での回転角は31.0度、拡大率は2.33倍です。
をドラッグし、半径 を小さくしてみてください。半径 を小さくするほど、実線(実際の による像)と破線の円(線形近似)は近づきます( で一致し、有限の では誤差 が残ります)。ただし を原点に近づけると話が変わります。 の は でちょうど になり、近似円が点に潰れて実際の像(2倍の角度で回る曲線)とずれてしまいます。
なぜ「回転+拡大」になるのか(CR方程式への入口)
(実部 、虚部 )として、 を実2変数の写像 と見ると、そのヤコビ行列は
です。これが複素数の掛け算(回転+拡大)を表す行列 の形になるためには、 かつ が必要です。これが次のレッスンで扱うコーシー・リーマン方程式で、「実部・虚部が単なる滑らかな2変数関数」であることと「複素微分可能であること」を分ける境界線になります。
理解チェック
、 のとき、 はいくつでしょうか?
答えを見る
なので 。絶対値は 、偏角は です。 の近くでは「45°回転して 倍に拡大」する変換になっています。
式で確かめる
動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。
確認 1 / 3
複素微分可能であるための条件として正しいものはどれですか?
確認 2 / 3
、 のとき、 の虚部はいくつですか?
確認 3 / 3
のとき、 近くの局所線形近似が表す変換は何ですか?
この章の定義・定理・公式をまとめて確認する
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執筆: 中野竜之介 / 監修: 古郷優平
中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり
最終更新: 2026-07-05
主な参考文献: Needham『Visual Complex Analysis』(Oxford) / Ahlfors『Complex Analysis』(McGraw-Hill) / 神保道夫『複素関数入門』(岩波)