連立系 x′ = Ax — 固有値が方向を決める
2つの量が互いに影響しあう系は、連立1階線形微分方程式で書けます:
第3章の2階線形も、位置と速度を成分にすればこの形に書き直せます。 そして解の振る舞いを決めるのは、係数行列 の固有値と固有ベクトルです。線形代数コース第9章がここで「使われ」ます。
触ってみる — 成分を動かすと軌道が変わる
の4成分をスライダーで動かしてください。左は相平面の軌道、右は固有値の複素平面です。 成分を変えると固有値が動き、軌道が渦を巻いたり・広がったり・鞍のように分かれたりします。
相平面の軌道
固有値の複素平面(虚軸=縦)
固有値が複素数なら渦(振動)。実数なら、固有ベクトルの上に乗った軌道だけが直線のまま進み、 それ以外の軌道は支配的な固有方向へ漸近する曲線を描きます。 実部が負なら原点へ収束(安定)、正なら発散(不安定)。固有値が軌道の運命を握っているのが見えます。
種明かし — 対角化 = 各成分が独立に進む座標
が固有値 、固有ベクトル を持つとき、一般解は
ただしこれは が一次独立(行列 が対角化可能)なときの話です。重根で固有ベクトルが1本しかない場合 (ジョルダン標準形)は の項が加わり、固有値が複素数の場合は共役な解どうしを組み合わせて実数解に組み直します。
固有ベクトル方向へ分ければ、各成分は で独立に伸縮するだけ。 これが線形代数コース第9章の対角化の正体です。「固有値は何の役に立つのか」への答えが、ここにあります。 連立してからまった系を、固有ベクトル座標で見ると絡まりがほどけ、 本の1階方程式に分かれます。
固有ベクトル = まっすぐ進む特別な方向
初期値を固有ベクトルの上に置くと、解はその直線から外れずに進みます( 倍されるだけ)。 なら外向き(赤の線)、 なら原点向き(緑の線)。 他の初期値の軌道は、これらの直線を骨組み(漸近線)にして流れます。
試してみよう
- にすると固有値が純虚数になり、軌道は原点を回る閉じた輪(中心)です
- を同符号にすると固有値が実の正負ペアになり、鞍点として2本の固有方向で軌道が分かれます
理解チェック
固有値が と (ともに実で負)のとき、軌道はどうなりますか?
はどちらも減衰するので、すべての軌道が原点へ吸い込まれます(安定な節点)。 の方向へ速く、 の方向へゆっくり潰れるため、軌道は の固有方向に沿って原点へ近づきます。
操作チャレンジ — 固有値で軌道を作る3問
中心・鞍点・安定な節点を、行列の成分スライダーで作り分けてください。
行列 の s を動かし、固有値を純虚数にして中心(周期軌道)を作ってください。
分類: 不安定な渦状点
式で確かめる
動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。
確認 1 / 3
係数行列 の固有値がどちらも実部が負のとき、軌道はどうなりますか?
確認 2 / 3
固有値が複素数(実部を持つ虚数)のとき、軌道のおおまかな形は?
確認 3 / 3
固有値が実数で、一方が正・もう一方が負のペアになったとき、原点はどんな点になりますか?
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執筆: 石井馨 / 監修: 中野竜之介
中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり
数学レビュー協力: 北町晃洋
最終更新: 2026-07-05