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位相と同相 — 切らずに伸ばして重ねる

中学・高校で習った「図形の同じ」には段階がありました。合同は、ずらす・回す・裏返すだけでぴったり重なる関係です。長さも角度も完全に一致します。相似はそれを少しゆるめ、拡大・縮小を許した関係です。角度は保ちますが、長さは一定の比で変わってよいのです。どちらも「形の厳しさ」を少しずつ手放してきたわけです。

トポロジー(位相幾何学)は、この「ゆるめる」をもう一段おし進めます。長さも角度も面積も気にせず、切ったり貼ったりせず、伸ばす・曲げる連続変形で移り合えるかだけに注目する幾何学です。合同・相似では別物だった正方形と円も、この見方では「同じ形」です。ゴム膜を思い浮かべてください。破らず伸ばせば、正方形はいくらでも円に近づけられます。

見方許される変形保たれるもの
合同平行移動・回転・鏡映長さ・角度・面積すべて
相似+ 拡大・縮小角度・比
同相(トポロジー)+ 切らない連続変形(伸ばす・曲げる)穴の数など「つながり方」だけ

触ってみる — 正方形は円になれる

下のスライダーを動かして、正方形が円へ連続に変形していく様子を見てください。角がだんだん丸まっていくだけで、 どの瞬間にも「切る」「貼る」は起きていません。

t=0: 正方形そのもの(多角形で近似表示)

t=0t=0 のとき正方形、t=1t=1 のとき円で、その間はどの瞬間も切れ目のない1つの閉じた曲線です(角があるかどうか=なめらかさは、伸ばし縮みだけを見る同相では問いません)。 この「切らずに連続に変形できる」という関係を同相(homeomorphism)と呼びます。

同相の定義 — 連続な全単射で、逆も連続

正式には、2つの図形(位相空間)X,YX, Y が同相であるとは、

f:XYf: X \to Y

という全単射(1対1対応で、もれも重なりもない対応)が存在して、ff逆写像 f1f^{-1} も連続であることをいいます。

  • ff が全単射 → 点をくっつけたり(貼る)、点を分裂させたり(切る)しない
  • ff が連続 → 近くにある点は移した先でも近くにある(引き裂かない)
  • f1f^{-1} も連続 → 逆方向にも同じことが言える(戻すときも引き裂かない)

これが「ゴム膜の幾何学」の性質です。曲げる・伸ばす・縮めるはよいですが、切る・貼るはできません。この境界さえ覚えれば、 同相かどうかの直感はほぼ掴めます。

位相不変量 — 連続変形しても変わらないもの

同相な図形どうしで変わらない性質を位相不変量と呼びます。この章で押さえるのは1つだけです。

穴の数(種数 g)\text{穴の数(種数 } g\text{)}

閉曲面(球・トーラス・カップの表面など)では、この穴の数を種数 gg と呼びます。線とみなした文字のような1次元の図形では、対応する量は「独立した閉ループの数」(第1ベッチ数)で、これは曲面の種数とは別の不変量です(以降の章で曲面を扱うときにはっきり分かれます)。

正方形も円も穴は0個。連続変形では穴は増えも減りもしません(穴を作るには「切る」か「破る」が要ります)。 一方で、長さ・角度・面積は同相では変わってよい性質です。正方形を円に変形する過程で、 辺の長さも角も面積も刻々と変わっていましたが、それでも同相であることに変わりはありません。

連続変形で…
変わらない(位相不変量)穴の数(閉曲面では種数 gg)、連結成分の数、つながり方
変わってよい長さ、角度、面積

コーヒーカップとドーナツ

位相幾何学でよく引かれる例が「コーヒーカップとドーナツ(トーラス)は同相」というものです。 取っ手の穴とドーナツの穴は、どちらも穴が1つ(種数 g=1g=1)です。カップの本体をゆっくり潰してドーナツの輪に押し込めば、 切らずに変形できます。

正方形→円と同じように、今度は3次元でコーヒーカップがドーナツへ移り変わる様子を、スライダーで動かして確かめてください。

3D図を読み込み中…

t=0t=0 は取っ手つきのコーヒーカップ、t=1t=1 はなめらかなドーナツ。取っ手の穴がそのままドーナツの穴になり、 本体は取っ手の輪へ回り込んでいきます。どちらも穴は1つ(種数 g=1g=1)だから同相です。 この変形は1枚のつながったメッシュの上で行われ、穴の数(種数 g=1g=1)が終始保たれます(第2章で学ぶオイラー標数 χ=0\chi=0 も同様に保たれます)。 赤い輪は取っ手・トーラス管の内部を一周する芯曲線で(穴の縁ではありません)、変形の間ずっと「同じ1つの穴」として追跡されているのが見えます。

逆に、球面(種数 g=0g=0)とトーラス(種数 g=1g=1)は同相ではありません。穴の数という位相不変量が 0011 で異なるからです。球をどれだけ伸ばし縮めしても、切らずに穴を開けることはできません。

種数で判定してみよう

まず自分で答えを考えてから、解答を開いて確かめてください。

マグカップ(取っ手つき、穴1つ)と、取っ手のないコップ(穴0個)は同相でしょうか?

同相ではありません。マグカップは種数 g=1g=1、取っ手のないコップは種数 g=0g=0。穴の数(位相不変量)が 違うので、切らずに移り合うことはできません。

プレッツェル(穴が2つ)とドーナツ(穴が1つ)は同相でしょうか?

同相ではありません。プレッツェルは種数 g=2g=2、ドーナツは種数 g=1g=1212 \neq 1 なので、穴の数が 合わず同相にはなりません。

理解チェック

「連続変形」なら、図形を破ってつなぎ直してもよい?

いいえ。破る(切る)・貼り合わせる操作は同相の対応にはなりません。定義に戻ると、どちらも「点の1対1対応 (全単射)」の段階でつまずきます。たとえば円 S1S^1 と閉区間で考えると、貼り合わせる(区間→円)操作は 両端の2点を1点へ送るので単射になりません。逆に切り開く(円→区間)操作は、切った1点が切り口の 両端として2点に分裂するので、やはり点どうしの1対1対応になりません。伸ばす・曲げるだけがOKです (なお、半開区間 [0,1)[0,1) から円への写像のように連続な全単射が作れても、逆写像が不連続なら同相ではありません)。

穴の数さえ同じなら、どんな図形も同相と言い切ってよい?

この章で扱うのは「穴の数で仲間分けできる」という直感止まりです。実際には、連結な向き付け可能 閉曲面(球面やトーラスなど)については種数が同相類を完全に決めますが、より複雑な空間では種数だけでは 決まらない場合もあります。ここでは平面図形やアルファベットのような単純な形を、穴の数という目印で分類する練習をします。

「変形して重ねられる」と「同相」は同じ?(発展)

厳密には別物です。同相は抽象的な空間として連続な全単射(逆も連続)で移り合えることで、 周囲の空間 R3\mathbb{R}^3 の中で実際に動かして重ねられる必要はありません。たとえば三葉結び目と ふつうの円は、どちらも1本の輪(S1S^1)なので抽象空間としては同相ですが、R3\mathbb{R}^3 の中では 切らずに一方を他方へ動かすことはできません(こちらは ambient isotopy という別の関係で、結び目理論の主題)。 この章の正方形↔円のように「周囲空間の中で連続に動かして重ねられる」例は同相の十分条件のひとつ、 と捉えてください。

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執筆: 榎本颯斗 / 監修: 榎本颯斗

中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり

数学レビュー協力: 中野竜之介・野田一成・木村敏樹

最終更新: 2026-07-05

主な参考文献: 瀬山士郎『トポロジー: 柔らかい幾何学』(日本評論社) / Armstrong『Basic Topology』(Springer)

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