微分方程式とは — 方向場で解を眺める
高校数学コース第6章では、漸化式 で「次の項は今の項から決まる」数列を、 クモの巣図で追いました。微分方程式はその連続版です。「次の値」ではなくその瞬間の変化率を決める:
読み方はこうです。「点 にいるとき、 は の速さで変わる」。 高校数学コース第12章で を接線の傾きとして見ました。だからこの式は、 平面の各点に傾きが1つずつ指定されていると読めます。解は数ではなく関数 — その傾き指定を残らず満たす曲線です。
触ってみる — 方向場の上に解が浮かぶ
各点に傾き の短い線分を置いたものが方向場(スロープフィールド、slope/direction field)です。 下は成長モデル の方向場。橙の点をドラッグしてください。 その点を通る解曲線が、線分をなぞるように前後へ伸びていきます。
まだ式を解いていません。それでも、初期値を1つ決めれば解が1本に決まることが手で分かります。 どこから出発しても、解は緑の破線 に吸い込まれていく——これが方向場の力です。
種明かし — 傾きの地図をなぞるだけ
解曲線がやっていることは単純です。今いる点の傾き を読み、その向きに少し進み、 また次の点で傾きを読み直す。方向場はその傾きを平面じゅうに書き出した地図で、 解はその地図の上を流れる1本の川です。第5章のオイラー法は、この「少し進む」を文字どおり実行します。
初期値 を1点決めると、そこから川は1本に定まります。これが解の存在と一意性の直感です。 厳密な条件(リプシッツ条件)もありますが、本コースでは深入りしません(発展テーマ)。
平衡解 — 流れが止まる高さ
となる水平線では傾きが 、つまり解がそこに留まります。これが平衡解です。 上の図では と の2本。他の解は には吸い寄せられ( 安定)、 からは離れていきます( 不安定)。安定性の詳しい話は第4章・第6章の主役になります。
試してみよう
- 橙の点を の上に置くと、解はどうなりますか(水平のまま — 平衡解です)
- より上から出発させてください。解は下がって に近づきます(その高さでは傾きが負)
- 初期値を のすぐ上に置くと、最初はゆっくり、途中で急に立ち上がります(S字成長の予告)
理解チェック
「微分方程式を解く」とは、結局何を求めることでしょうか?
数ではなく関数 を求めることです。方程式 を満たす曲線のうち、 初期条件で1本を選び出します。方向場は「その曲線がどう走るか」を、解く前に見せてくれる下絵です。
操作チャレンジ — 方向場を読む3問
方向場の傾き を手がかりに、平衡解・最急・下降域を当ててください。
方向場の線分が水平(傾き 0)になる、ゼロでない平衡解の高さ y に合わせてください。
y = 1.50 で 傾き f = 0.525
執筆・監修: 中野竜之介(北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり)
最終更新: 2026-07-05