ベクトルとは何か
ベクトルには2つの顔があります。物理学者にとっては空間に浮かぶ矢印、
プログラマーにとっては数の組 [2, 1]。線形代数の面白さは、この2つを
重ね合わせて見られるようになる瞬間から始まります。まず矢印を動かして、数がどう追いかけてくるか見てみましょう。
このコースでは当面、平面上の矢印と座標の組を同じものとして扱います。ただし後の「ベクトル空間」の章で見るように、座標
[2, 1]は基底を選んではじめて決まる表現で、矢印そのものとは区別されます。いまは「基底を固定したうえでの同一視」だと思っておいてください。
触ってみる — 足し算は「継ぎ足し」
赤い点と青い点をドラッグしてください。黄色いベクトルが2つの和 です。 点線に注目すると、和は「 の先に を継ぎ足した到達点」、 つまり平行四辺形の対角線になっています。
ベクトル a は (2.0, 1.0)、ベクトル b は (-1.0, 2.0)、ベクトル a+b は (1.0, 3.0) です。
赤 ・青 をドラッグして動かせます
成分で見れば、和はただの座標ごとの足し算です:
矢印の「継ぎ足し」と数の「成分ごとの和」は常に一致します。これがベクトルの第一の約束です。
スカラー倍 — 伸ばす・縮める・裏返す
もう1つの基本演算はスカラー倍 です。スカラーとは、向きを持たないただの数(ここでは実数 )のこと。スライダーで を動かしてみてください。 を負にした瞬間、矢印が反対向きに裏返るのがポイントです。
スカラー k は 1.5、ベクトル a は (2.0, 1.0)、スカラー倍 ka は (3.0, 1.5) です。
「足す」と「スカラー倍する」。実は線形代数のすべての操作は、この2つの組み合わせでできています。 次章で登場する線形結合はまさにその組み合わせです。
内積 — どれだけ同じ方向を向いているか
2つのベクトルの「相性」を測る道具が内積 です。 赤い点を青いベクトルの周りでぐるっと回してみてください。 黄色い「影」(正射影)が伸び縮みし、直角になった瞬間に内積が 0 になります。
ベクトル a は (1.5, 2.0)、ベクトル b は (3.0, 0.5)、内積は 5.50、なす角は 44 度です。a の b 方向への正射影は (1.78, 0.30)、影の長さは 1.81 です。
- 同じ向き → 内積は正(影が長い)
- 直交 → 内積はちょうど 0(影が消える)
- 逆向き → 内積は負(影が逆側に出る)
この「影の長さ」という見方は、第8章の射影・最小二乗法(機械学習の回帰の心臓部)でそのまま主役になります。
試してみよう
- 最初の図で と を同じ向きにすると、和はどうなる?(矢印が一直線に継ぎ足される)
- スカラー倍で にすると?(どんなベクトルも原点=零ベクトルに)
- 内積の図で の領域はどこか、影の向きで確かめよう
理解チェック
の長さはいくつでしょうか?また と直交するベクトルを1つ挙げてください。
答えを見る
長さは 。直交するベクトルは内積が 0 になればよいので、 例えば ()。成分を入れ替えて片方の符号を反転すると、 平面ではこれが常に直交ベクトルを作る方法になります。内積の図で再現してみてください。
操作チャレンジ — 図で解く5問
読んで分かったら、次は手で証明しましょう。5問すべて、図の操作だけで解けます。 条件を満たした状態を少しキープすると正解になります。
赤い矢印を「右に、上に」、青い矢印を「右に、上に」に動かして、オレンジの合成矢印を星印に重ねてください。
式で確かめる
動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。
確認 1 / 3
、 のとき、 はどれですか?
確認 2 / 3
の長さ(大きさ) はいくつですか?
確認 3 / 3
2つのベクトルの内積が 0 のとき、両者の関係は?
この章の定義・定理・公式をまとめて確認する
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執筆: 中野竜之介 / 監修:
中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり
数学レビュー協力: 木村敏樹
最終更新: 2026-07-05