回帰 — 最小二乗をML視点で握り直す
線形代数の第8章と統計の第10章で、あなたはすでに最小二乗法に触れています。ここではその同じ計算を、機械学習の言葉で握り直します。式は増えません。名前と見え方が変わるだけです。
触ってみる — 残差と、その二乗和
橙の点をドラッグすると、青い最小二乗直線と赤い残差が追従します。これは線形代数第8章で見た図そのものです。
最小二乗法の回帰直線は y = 0.83x + 0.12 です。残差の2乗の合計は 0.01 で、この直線はこの値を最小にするように選ばれています。
オレンジの点をドラッグして動かせます
残差の合計 = (直線はこれを最小にする1本)予測は 。各点の縦のずれ(残差) を二乗して足したものが損失です。
なぜ二乗か。符号を消して(上振れも下振れも罰する)、なめらかで微分しやすい形にするためです。絶対値でも符号は消せますが、折れ曲がる分だけ最適化が扱いにくくなります。
損失地形をはじめて描く
パラメータが と の2つになりました。横軸 ・縦軸 の平面に損失を高さとして描き、上から見たのが損失地形の等高線です。
損失 谷底の旗 ⚑
つまみを動かすと、椀型の谷を上から覗いている感覚がつかめます。谷底の旗が最小二乗解です。谷が細長いのは、傾きと切片で損失の敏感さが違うからです。この「細長さ」が、第5章の勾配降下で効いてきます。
種明かし — 同じ式の3つの顔
この最小二乗解には、別々のコースで出会った3つの顔があります。行列で書くと、
- 線形代数第8章では、これは を列空間へ射影した到達点の係数。射影そのものは をかけた で、 にいちばん近い点
- 統計第10章では、これは最小二乗推定量。データから傾きと切片を推定する式
- 機械学習では、これは損失 を最小にする学習済みパラメータ
という1つの式が、最小二乗推定量でもあり、学習の答えでもある。列空間への射影は をかけたハット行列 で、 がその射影(いちばん近い点)。分野で名前が変わるだけで同じ計算です。
この式は閉じた形で一発で解けます。行列の逆が計算できる限り、坂を下る必要はありません。これが「解ける回帰」と、次章以降の「解けないので下って探すモデル」の分かれ目です。
試してみよう
- 残差の合計(符号つき)は、最小二乗直線でいくつになるでしょう(ちょうど 0。上側と下側のずれが釣り合います)
- 点を1つだけ大きく外れた位置へ引きずると、直線はどう動きますか(二乗が効いて、外れ値に強く引っ張られます)
理解チェック
逆行列 が計算できないのはどんなとき?
特徴量が1次従属のとき(例えば同じ列が2つある、データ点が足りない)です。 が正則でなくなり、解が一意に定まりません。第8章の正則化(リッジ回帰)は、まさにこの不安定さに罰則を足して安定させる処方でもあります。
操作チャレンジ
傾き と切片 を動かして、残差二乗和を 0.5 未満にしてください。これが最小二乗解です。
残差二乗和 (正規方程式の解に一致させる)
式で確かめる
動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。
確認 1 / 3
最小二乗直線において、符号つきの残差(実測 − 予測)の合計はいくつになりますか。
確認 2 / 3
という同じ式が持つ「3つの顔」に含まれないものはどれですか。
確認 3 / 3
損失に絶対値でなく二乗を使う主な理由はどれですか。
この章の定義・定理・公式をまとめて確認する
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執筆: 中野竜之介 / 監修:
中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり
最終更新: 2026-07-05