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記述統計 — データを1枚の図にする

150人分の試験の点数表を渡されて「どんな結果だった?」と聞かれたら、どう答えますか。 150個の数字を読み上げるわけにはいきませんよね。統計学の最初の仕事は、データの山を要約して1枚の図・数個の数字に圧縮することです。

触ってみる — 同じデータ、違う顔

まずはヒストグラム。データを「階級」に区切って本数を数えた図ですが、実は階級幅の選び方ひとつで印象が激変します。

同じ150人の試験データ。階級幅を1〜25点まで動かしてみてください

幅を狭くすると山が2つあることが見えてきます(実はこのデータ、2つのグループの混合です)。 広げすぎるとその構造は消え、狭すぎるとノイズだらけになります。 「ヒストグラムは1つ描いて終わり」ではありません。大事なのはデータに合わせて適切な幅を選ぶことで、そのために幅を動かして見比べるのです。

中心はどこか — 平均値と中央値

次に「中心」を1つの数字で表しましょう。代表は平均値中央値です。式で表すと、平均値は次のとおりです。

xˉ=1ni=1nxi\bar{x} = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} x_i

平均値はデータの「重心」、つまりシーソーがつり合う支点です。一方、中央値は「並べたときの真ん中の人」。

データ点1の値
データ点2の値
データ点3の値
データ点4の値
データ点5の値
データ点6の値
データ点7の値

平均は3.50、中央値は3.50、差は0.00です。データ点の値: 1.0、2.0、3.0、3.5、4.0、5.0、6.0。

データ点(グレー)を横にドラッグ。赤 = 平均(シーソーの支点)、青 = 中央値

右端の点を1つだけ、ずーっと遠くへ引きずってみてください。 平均値(赤)は外れ値に引きずられ、中央値(青)はほとんど動かないはずです。 「平均年収」が実感より高く感じるのは、ごく少数の高所得者がシーソーの支点を引っ張っているからです。たとえば9人が年収400万円、1人だけ年収4000万円という10人のデータなら、平均値は (9×400+4000)/10 = 760万円まで引き上がりますが、中央値は400万円のまま動きません。

散らばりの指標

中心だけでは「全員60点」と「0点と120点が半々」を区別できません。散らばりを測るのが分散標準偏差です。

s2=1n1i=1n(xixˉ)2,s=s2s^2 = \frac{1}{n-1}\sum_{i=1}^{n}(x_i - \bar{x})^2, \qquad s = \sqrt{s^2}

偏差(平均からのずれ)を2乗して合計し、n1n-1 で割ります。2乗するのは、プラスとマイナスのずれが打ち消し合わないようにするため。割る数を nn ではなく n1n-1 にするのは、手元の標本から母集団の散らばりを推定するときに自然に出てくる調整で、その理由は第8章(推定)で扱います(いまは「2乗のならしで散らばりを測る」と捉えておけば十分です)。この n1n-1 で割った値を不偏分散nn で割った値を標本分散と呼び分けます(本コースの s2s^2 は不偏分散です)。 日本でおなじみの偏差値は、平均50・標準偏差10になるようデータを引き伸ばした「ものさしの規格化」にすぎません。

もう1つの要約 — 五数要約と箱ひげ図

平均・標準偏差は外れ値に引きずられます。順位で決まる五数要約(最小・第1四分位数Q1・中央値・第3四分位数Q3・最大)のうち、中央値と四分位数(Q1・Q3)は外れ値の影響を受けにくく、箱の部分がデータ中央50%の広がりを安定して映します(最小・最大そのものは、いちばん端の1点なので外れ値の影響を受けます)。これを1枚にしたのが箱ひげ図です。

五数要約: 最小 3.0 / Q1 6.0 / 中央値 8.0 / Q3 11.0 / 最大 13.0。 ひげ端(外れ値を除いた範囲)は 3.013.0 で、 外れ値があるときは五数要約の最小・最大と一致しません。IQR=Q3Q1=5.0\text{IQR} = Q3 - Q1 = 5.0。橙の点は Q11.5×IQRQ1 - 1.5\times\text{IQR} Q3+1.5×IQRQ3 + 1.5\times\text{IQR} の外にある外れ値です。 追加点スライダーを両端へ動かすと、点が橙(外れ値)に変わりひげが縮む様子が見えます。

箱の左右が Q1・Q3、真ん中の赤線が中央値、箱の幅が四分位範囲(IQR = Q3 − Q1、真ん中50%の広がり)。ひげは Q1 − 1.5×IQR 〜 Q3 + 1.5×IQR に収まる範囲まで伸び、その外の点は外れ値(橙)として個別に打ちます。プリセットで分布の形を、スライダーで1点を動かすと、外れ値の判定とひげの縮みが連動します。

理解チェック

ある会社の給与データでは平均が中央値よりかなり大きいそうです。分布が単峰(山が1つだけの形)で、極端な混合ではない典型的な形だと仮定すると、給与分布はどんな形をしていると推測できますか?

答えを見る

(単峰で典型的な分布を仮定すると)右に長い裾を持つ(右に歪んだ)分布と推測できます。少数の高給与がシーソーの支点(平均値)を右へ引きずる一方、中央値は「真ん中の人」なので動きません。上の図で再現できます。ただし厳密には、平均値と中央値の大小だけから分布の形が一意に決まるわけではありません。

式で確かめる

動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。

確認 1 / 3

データ 2, 4, 4, 6, 9 の平均はいくつですか?

確認 2 / 3

同じデータ 2, 4, 4, 6, 9 の中央値(小さい順で真ん中の値)はいくつですか?

確認 3 / 3

ある分布が単峰で極端な混合ではないとして、平均が中央値よりかなり大きいとき、分布の形はどれと推測できますか?

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執筆: 古郷優平 / 監修: 中野竜之介

中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり

数学レビュー協力: 木村敏樹

最終更新: 2026-07-05

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