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ベクトル解析 / 第2章 · 1つ目のレッスン

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勾配 grad と最急方向

スカラー場の「地形」を最も急に登る方向を教えてくれる道具が勾配(gradient)です。

∇f=(∂f∂x, ∂f∂y)\nabla f = \left(\frac{\partial f}{\partial x},\ \frac{\partial f}{\partial y}\right)

各偏微分を並べただけのベクトルですが、驚くべき性質を2つ持っています。それは大きさが最急上昇の傾きであることと、向きが等高線と直角であること(∇f≠0⃗\nabla f\neq\vec 0 で等高線がなめらかに描ける点に限った話です)の2つです。この章では後者を確かめます。

触ってみる — 勾配は等高線と直角に交わる

橙の点をドラッグすると、通っている等高線(青)とその点での勾配ベクトル(赤)が同時に描かれます。赤と青がいつも直角になっていることを確かめてください(∇f=0⃗\nabla f=\vec 0 になる臨界点だけは例外で、勾配の向きが定義できません)。

橙の点の座標

橙の点は(1.60, 1.00)。この点でのスカラー場の値は3.06、勾配ベクトルは(3.20, 1.00)です。勾配と等高線の接線の正規化内積は-0.0000で、0に近いほど両者が直角に交わっていることを表します。

赤=∇f=(3.20,1.00)\nabla f=(3.20, 1.00)、青=等高線。正規化内積 ≈−0.0000\approx -0.0000(0に近いほど直交)

下のキャプションの「正規化内積」は、赤(勾配)と青(等高線の接線)の向きだけを比べた値です。0に近ければ直角です。等高線は勾配とは別の式(媒介変数表示)で描いているので、この一致は偶然ではありません。

種明かし — なぜ直角になるのか

等高線の上を動くとき、ff の値は変化しません(f=cf=c で一定だから)。合成関数の微分より

ddtf(x(t),y(t))=∇f⋅(x′(t),y′(t))=0\frac{d}{dt}f(x(t),y(t)) = \nabla f \cdot (x'(t), y'(t)) = 0

等高線の接線ベクトル (x′(t),y′(t))(x'(t),y'(t)) との内積がつねに 0 になります。つまり∇f≠0⃗\nabla f\neq\vec 0 の点では勾配は等高線と直交するということです(∇f=0⃗\nabla f=\vec 0 の臨界点では等高線の接線自体が定義できず、勾配の向きも決まりません)。「値が変わらない方向」と「値が最も変わる方向」が直角に分かれているのは、1変数の関数に「変化なし(極値)」と「最大の傾き」という区別が無いこととは対照的な、多変数ならではの構造です。

どこで効くのか

  • 地図読み: 標高の等高線に直角な向きが、実際にその場所で一番きつい坂の向きです
  • 機械学習: 勾配降下法は −∇L-\nabla L(損失を最も減らす向き)へパラメータを動かす操作そのもの
  • 物理: 保存力 F⃗=−∇U\vec F=-\nabla U(ポテンシャルエネルギー UU が急に下る方向へ力が働く)

試してみよう

  • a=ba=b(等高線が円)にすると、勾配は常に円の中心から外向きの放射方向になる
  • 点を原点に近づけていくと勾配ベクトルの長さはどうなる?(0に近づいていきます。谷底では傾きが無くなるためです。ただし原点ちょうどでは等高線が1点に退化し勾配の向きは未定義になるので、ぴったり重ねるのは避けてください)

理解チェック

式で確かめる

動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。

確認 1 / 3

f(x,y)=x2+3y2f(x,y)=x^2+3y^2 の点 (2,1)(2,1) での勾配 ∇f=(2x,6y)\nabla f=(2x, 6y) の xx 成分はいくつですか?

確認 2 / 3

勾配ベクトル ∇f\nabla f の向きは、その点を通る等高線に対してどうなっていますか?(∇f≠0⃗\nabla f\neq\vec 0 の点で考えます)

確認 3 / 3

勾配ベクトル ∇f\nabla f が指す向きは何を意味しますか?

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執筆: 古郷優平 / 監修: 中野竜之介

中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり

最終更新: 2026-07-05

主な参考文献: Schey『Div, Grad, Curl, and All That』(Norton) / Marsden & Tromba『Vector Calculus』(W.H. Freeman) / 志賀浩二『ベクトル解析30講』(朝倉書店)

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