勾配 grad と最急方向
スカラー場の「地形」を最も急に登る方向を教えてくれる道具が勾配(gradient)です。
各偏微分を並べただけのベクトルですが、驚くべき性質を2つ持っています。それは 大きさが最急上昇の傾きであることと、向きが等高線と直角であること( で等高線がなめらかに 描ける点に限った話です)の2つです。この章では後者を確かめます。
触ってみる — 勾配は等高線と直角に交わる
橙の点をドラッグすると、通っている等高線(青)とその点での勾配ベクトル(赤)が同時に描かれます。 赤と青がいつも直角になっていることを確かめてください( になる臨界点だけは 例外で、勾配の向きが定義できません)。
橙の点は(1.60, 1.00)。この点でのスカラー場の値は3.06、勾配ベクトルは(3.20, 1.00)です。勾配と等高線の接線の正規化内積は-0.0000で、0に近いほど両者が直角に交わっていることを表します。
下のキャプションの「正規化内積」は、赤(勾配)と青(等高線の接線)の向きだけを比べた値です。 0に近ければ直角です。等高線は勾配とは別の式(媒介変数表示)で描いているので、この一致は偶然ではありません。
種明かし — なぜ直角になるのか
等高線の上を動くとき、 の値は変化しません( で一定だから)。合成関数の微分より
等高線の接線ベクトル との内積がつねに 0 になります。つまり の点では 勾配は等高線と直交するということです( の臨界点では等高線の接線自体が定義できず、 勾配の向きも決まりません)。 「値が変わらない方向」と「値が最も変わる方向」が直角に分かれているのは、 1変数の関数に「変化なし(極値)」と「最大の傾き」という区別が無いこととは対照的な、 多変数ならではの構造です。
どこで効くのか
- 地図読み: 標高の等高線に直角な向きが、実際にその場所で一番きつい坂の向きです
- 機械学習: 勾配降下法は (損失を最も減らす向き)へパラメータを動かす操作そのもの
- 物理: 保存力 (ポテンシャルエネルギー が急に下る方向へ力が働く)
試してみよう
- (等高線が円)にすると、勾配は常に円の中心から外向きの放射方向になる
- 点を原点に近づけていくと勾配ベクトルの長さはどうなる?(0に近づいていきます。谷底では 傾きが無くなるためです。ただし原点ちょうどでは等高線が1点に退化し勾配の向きは未定義になるので、 ぴったり重ねるのは避けてください)
理解チェック
式で確かめる
動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。
確認 1 / 3
の点 での勾配 の 成分はいくつですか?
確認 2 / 3
勾配ベクトル の向きは、その点を通る等高線に対してどうなっていますか?( の点で考えます)
確認 3 / 3
勾配ベクトル が指す向きは何を意味しますか?
この章の定義・定理・公式をまとめて確認する
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執筆: 古郷優平 / 監修: 中野竜之介
中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり
最終更新: 2026-07-05
主な参考文献: Schey『Div, Grad, Curl, and All That』(Norton) / Marsden & Tromba『Vector Calculus』(W.H. Freeman) / 志賀浩二『ベクトル解析30講』(朝倉書店)