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固有値・固有ベクトル

行列 AA で空間を変形すると、ほとんどのベクトルは向きを変えられてしまいます。 ところが、変換しても同じ直線の上に乗り続けるベクトル(向きはそのままか、ちょうど正反対になる)がまれに存在します。 それが固有ベクトルです。定義式 Av=λvA\vec{v} = \lambda\vec{v} を眺める前に、実際に探してみましょう。

触ってみる — 固有ベクトル狩り

オレンジのベクトル v\vec{v} をドラッグしてぐるっと一周させてください。 紫のベクトルが変換後の AvA\vec{v} です。2本の向きがぴったり揃った瞬間、 図が光って「発見!」となります。

3つの行列で狩りをしてみてください:

  1. のび (2112)\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 1 & 2 \end{pmatrix} — 何本見つかる?
  2. せん断 (1101)\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} — 何本?
  3. 回転 45° — ……見つかる?
変換の種類

変換 A=A = (2112)\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 1 & 2 \end{pmatrix}

ベクトル v の成分

変換「のび」。入力ベクトル v は (2.0, 0.5)、向きは正の x 軸から 14.0 度。変換後のベクトル Av は (4.5, 3.0)、向きは正の x 軸から 33.7 度。まだ固有ベクトルの向きとは判定されていません。

オレンジの v をぐるっと回して、紫の Av と向きが揃う場所を探そう

いま何が起きていたのか

向きが揃ったとき、AvA\vec{v}v\vec{v} のただのスカラー倍です:

Av=λvA\vec{v} = \lambda\vec{v}
  • v\vec{v}: 固有ベクトル(変換後も同じ直線上に残るベクトル。λ<0\lambda<0 なら向きは反転する。その直線上はすべて仲間)
  • λ\lambda: 固有値(その方向での伸縮率。図に表示された値)

狩りの結果はこうだったはずです:

  • のび: 2方向見つかる((1,1)(1,1) 方向で λ=3\lambda = 3(1,1)(1,-1) 方向で λ=1\lambda = 1)
  • せん断: (1,0)(1, 0) 方向の1本だけ(対角化できない行列の典型例)
  • 回転: 0本。すべてのベクトルが45°回されるので、向きを守るものがいない(実固有ベクトルなし)

固有ベクトルの見つけ方(手計算)

Av=λvA\vec{v} = \lambda\vec{v} を移項すると (AλI)v=0(A - \lambda I)\vec{v} = \vec{0}。 零でない v\vec{v} が原点に潰されます。つまり行列 AλIA - \lambda I潰れていなければなりません。 前章の言葉でいえば:

det(AλI)=0\det(A - \lambda I) = 0

これが特性方程式です。「λ\lambda をいくつ引いたら空間が潰れるか」を探す方程式だった、 というのが幾何の種明かしです。のびの行列なら det(2λ112λ)=(2λ)21=0\det\begin{pmatrix} 2-\lambda & 1 \\ 1 & 2-\lambda \end{pmatrix} = (2-\lambda)^2 - 1 = 0λ=3,1\lambda = 3, 1。狩りの結果と一致します。

なぜ大事なのか

固有方向で世界を見直すと、複雑な変換が「各方向への単純な伸縮」に分解されます(対角化)。 AA を100回かけた結果も λ100\lambda^{100} で即答でき、Googleの PageRank(確率遷移行列の固有値1の定常ベクトル)も、 統計の主成分分析(PCA、共分散行列の上位固有ベクトル)も、直観的には「反復して主要な固有方向を取り出す」ことが本体です。 ここから先(対角化・対称行列・SVD)は、この章の狩りの直感がそのまま土台になります。

3次元で見る — 向きを守る3本の軸

平面では一次独立な固有ベクトルは高々2本でしたが(固有ベクトル自体は非零のスカラー倍も含めれば無限にあります。 たとえば単位行列 I2I_2 はすべての方向が固有方向です)、3次元の対称行列なら3本の正規直交固有基底を選べます。 下は A=(210120004)A = \begin{pmatrix} 2 & 1 & 0 \\ 1 & 2 & 0 \\ 0 & 0 & 4 \end{pmatrix} の固有ベクトルです。 灰色の単位球が変換で楕円体に変わり、色付きの3本の軸(固有値 λ=3,1,4\lambda = 3, 1, 4)が 楕円体の主軸になっています。ドラッグで回して、これらの軸だけは向きが変わらないことを確かめてください。 掃くように動く赤い AvA\vec{v} は、緑の固有方向を通る瞬間だけ v\vec{v} と平行になります。

3D図を読み込み中…

試してみよう

  • のびの行列で、固有ベクトルを見つけたらその直線上の別の点でも光ることを確認(固有「方向」であって1本の矢印ではない)
  • せん断で xx 軸の少し上をゆっくり通過 — AvA\vec{v} がどちら側にずれるか観察
  • 回転で一周して、v\vec{v}AvA\vec{v} の角度が常に45°であることを体感

理解チェック

対角行列 A=(3001)A = \begin{pmatrix} 3 & 0 \\ 0 & -1 \end{pmatrix} の固有ベクトルと固有値は?

答えを見る

ı^=(1,0)\hat{\imath} = (1, 0) 方向が λ=3\lambda = 3ȷ^=(0,1)\hat{\jmath} = (0, 1) 方向が λ=1\lambda = -1。 対角行列は最初から「軸方向の伸縮だけ」の変換なので、座標軸そのものが固有ベクトルです。 λ=1\lambda = -1 は「向きが反転する伸縮」です。スカラー倍の章で見た負の倍率がここで再登場します。

式で確かめる

動かして掴んだ感覚を、式と言葉で確かめます。間違えても、ヒントと解説で戻れます。

確認 1 / 3

行列 AA の固有ベクトル v\vec{v} とは、どんなベクトルですか?

確認 2 / 3

x軸方向に3倍、y軸方向に −1倍する(軸方向の伸縮だけの)変換の、大きい方の固有値は?

確認 3 / 3

固有値 λ=1\lambda = -1 の方向では、ベクトルはどうなりますか?

この章の定義・定理・公式をまとめて確認する

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執筆: 中野竜之介 / 監修:

中野竜之介: 北海道大学大学院 数学専攻 博士課程・専門: 特殊関数論と代数幾何の交わり

数学レビュー協力: 木村敏樹

最終更新: 2026-07-05

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